法人成りは、年収がいくらになったら考えるものか
よく「売上1,000万円を超えたら」と言われますが、実際には所得の金額や扶養の状況によって変わります。判断のめやすを整理しました。
「売上が1,000万円を超えたら法人にしたほうがいい」という話を、一度は耳にされたことがあると思います。ただ、この言い方には二つの誤解が混ざっています。
ひとつは、判断のもとになるのが売上ではなく所得だということ。もうひとつは、1,000万円という数字が指しているのは、法人成りの損得ではなく消費税の課税事業者になるタイミングだということです。
見るべきは売上ではなく所得
法人にするかどうかで比べるのは、手元に残るお金です。売上が3,000万円あっても、仕入や外注費で2,700万円が出ていくのであれば、残るのは300万円です。この状態で法人にしても、税負担はほとんど変わりません。
判断の材料になるのは、売上から経費を引いたあとの事業所得です。ここが年間でおよそ600万円から800万円のあたりに乗ってきたら、一度試算してみる時期だと考えています。
なぜこのあたりかというと、個人の所得税は累進課税で、課税所得が695万円を超えると税率が23%に上がるからです。法人税は所得800万円までが軽減税率で、実効税率でおよそ25%前後。ここで両者が逆転しはじめます。
「1,000万円」が意味していること
売上1,000万円という数字がよく出てくるのは、消費税の話です。
原則として、2期前の課税売上高が1,000万円を超えると、消費税を納める義務が生じます。この時期に合わせて法人を作れば、法人としては新たに事業をはじめたことになり、消費税の納税義務が一定期間免除されることがありました。
ただ、この扱いはインボイス制度がはじまってから事情が変わっています。取引先がインボイスの発行を求めてくる場合、免税事業者でいることを選べないケースが増えました。消費税の免除だけを目的に法人成りを考える意味は、以前より小さくなっています。
所得以外に見ておきたいこと
税負担の比較だけで決めてしまうと、あとで思わぬところが引っかかります。試算のときは次の点もあわせて確認します。
社会保険料
法人にすると、社長一人であっても社会保険への加入が原則として必要になります。国民健康保険と国民年金からの切り替えで、負担が増える方も減る方もいます。ご家族を扶養に入れられるかどうかでも変わるところです。
くわしくは法人化すると、社会保険料はどれくらい増えるのかにまとめました。
法人を維持する費用
法人には、赤字であっても最低限かかる費用があります。
- 法人住民税の均等割(多くの場合、年間7万円)
- 決算・申告にかかる税理士報酬
- 設立時の登記費用(株式会社でおよそ25万円、合同会社でおよそ11万円)
年間で30万円から50万円ほどは、法人でいるためのコストとして見ておく必要があります。試算の際は、税負担の差額がこれを上回るかどうかを確認します。
事業をやめるときのこと
法人は、作るときよりもたたむときのほうが手間がかかります。清算の手続きには数か月と、それなりの費用がかかります。数年で事業の形が変わりそうであれば、あわてて法人にしないという判断もあります。
税負担以外の理由で法人にする場合
数字の上では個人のままが有利でも、法人にしたほうがよい場面があります。
- 取引先の要件:法人でなければ契約できない、と言われた
- 信用:融資や賃貸借の審査で、法人のほうが通りやすい場面がある
- 人を雇う:採用の際に、法人であることが求められる業種がある
- 決算期を選べる:個人は12月固定ですが、法人は自由に決められます
こうした事情がある場合は、税負担が多少増えても法人にする意味があります。数字はあくまで判断材料のひとつです。
まとめ
| 見るところ | めやす |
|---|---|
| 事業所得 | 年間600〜800万円を超えたら試算してみる |
| 売上 | 1,000万円は消費税の話。法人成りの損得とは別 |
| 維持費用 | 年間30〜50万円ほどを見込んでおく |
| 社会保険 | 増える方も減る方もいる。必ず個別に確認する |
一般論ではここまでしか言えません。実際にどうなるかは、ご家族の働き方、いま加入されている保険、これから数年の事業の見通しによって変わります。
当事務所では、個人のまま続けた場合と法人にした場合を並べた試算表をお出ししています。法人成りのご相談のページもあわせてご覧ください。